【あらすじ】
一人の小学生の遺体が住宅街の公園のトイレで発見された。
捜査をしていく上で浮かんできた一見平凡な家族。
「この家には、隠されている真実がある。

それはこの家の中で、

彼等自身の手によって明かさなければいけない。」

刑事、加賀恭一郎の謎めいた言葉の意味は?

家族のあり方を問う直木賞受賞後第一作。

 

 

また1日で一気に読んでしまいました。

 

今回の作品は「加賀恭一郎」シリーズの一冊。
長編ではないので、すぐ読めてしまうし、

読み進めていくうちに、展開が気になってしまいました。

展開というか、登場人物の心理状態の変化が細かく描写されていて、

これから各登場人物がどんな動きをするのか

推測していくうちに気付いたら、最後まで読んでたって感じかな。

 

所轄の敏腕刑事加賀恭一郎が、

鋭い視点で事件の真相解明と謎に

犯人と真っ向から向き合っていくというものですが、

この加賀シリーズはなぜか一気に読みたくなります。

 

 

事件の巧妙なトリックを一つとして見落とさず、

常識やモラルにとらわれず、

あらゆる視点で冷静に犯人にせまっていくという点も読み手をひきつけるが、

一番好感をもてるのはこの加賀のキャラクターの描かれ方でしょう。

敏腕刑事でありながら、その事件の裏に隠されている背景についても細かく触れています。

 

 

最近の東野圭吾作品は、

特に現代の深刻な社会問題を全面に出して、

それと事件を絡ませる作品が多くなってきましたが、

今回の作品も「高齢化社会と介護の実態」「イジメ」「少年犯罪」

「家庭崩壊」「幼女殺害」「引きこもり」など、

重いテーマが組み込まれているストーリーです。

そして最近の東野作品と同じく、

今回も先に犯人は誰かが明らかになっていて、

読者には犯人もトリックもわかっていますが、

その犯人とトリックを加賀刑事が暴いていくというものです。

 

ここからはネタバレになります。

読んでいない人は本を読んでからどうぞ!!

本の感想はこちら↓

 

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読み終わった感想ですが、

まず東野圭吾らしく最後にどんでん返しがありました。

先程も言ったように今回の作品で扱われている

一番の大きな問題は「介護」問題です。

 

このお話は前原家というある平凡な家族が中心になっていますが、

家族といってもそれは形だけ。

家族間の気持ちが何も通じてない崩壊寸前の家庭です。

照明器具メーカー勤務の夫・昭夫とその妻・八重子。

 

そして中学生の息子直巳。

反面八重子は一人息子の直巳を異常にかわいがっている。息子の言うことは何でも聞いてやり、
どんな生意気な態度をとっても息子の顔色を伺い、腫れ物に触るようにご機嫌をとろうとします。
直巳は小学校の頃から学校でいじめられ、学校に行くのが嫌になりますが、
昭夫に頭ごなしに学校に行くよう言われ、いじめられながらも学校に通うようになり、
その頃から父とはほとんど口を聞かないようになり、家の中では引きこもり状態。
また、少女趣味の傾向があるのか、自分より下のまだ幼い女の子に興味を持っています。
昭夫も息子には干渉しないようになり、家庭の問題には見て見ぬふりをして家族と距離をおきます。

そんな前原家に事件が。
直巳が自宅で殺人事件を起こした。
ある日、いたずらをしようとして連れてきた小学生の少女が暴れたので、口を防ぐために
首を絞めて殺したのです。
直巳は全責任を放棄し、自分は悪くないといって部屋にこもりきりになります。
警察に素直に通報する昭夫をなんとしてでもとめようとする八重子。
直巳の一生に傷がつく。刑務所なんかに入っては直巳の人生は終わりだ。
なんとかあの死体を処理してください・・・
絶対にやってはいけないことに手を染めていく昭夫。
そして、警察の捜査が前原家にせまってもうごまかしきれないという時になったときに、
昭夫は実母を殺人犯に仕立て上げ、無実の罪を着せようとする・・・

最後の大逆転は、実は実母政恵がボケている振りをしていて、すべてのことを把握していた・・・
ということでした。
それに気付いた加賀刑事が、最後まで家族の問題で起きた悲劇をなんとか家族同士で救い出そうとします。
最後、政恵が連行されるところで、昭夫が学生時代に作った彫刻刀の手作りのストラップを
まだ杖につけている姿を後ろから見たところで、昭夫がついに自白をします。
ここで、あまりに悲しすぎて泣いてしまいました。

これは、他人の心と争いから目を向け、自分に被害が起こらないようにした結果が招いた悲劇の事件です。
「無責任さ」が招いた犯罪。
自分がやったことに責任をもてないのです。
これは、決して許されないことですが、この現象は今の日本社会で深刻化している問題なのです。
犯罪を犯しても、自分はやってないと言い張る。
子供を産んでも、子供を育てられないからといって子供を捨てる。殺す。暴力を犯す。
そして、罪に罪を重ねる犯罪者。

東野圭吾は、エンジニア出身なのにも関わらず、現代社会が抱えている問題についてかなり重く取り扱って
いますねぇ。やはり、この理不尽な社会を何とか変えたいという想いで作品を描いているのでしょうか。
それとも、変えたくても変えられないほど歪んでしまった社会の実態を描きたいのでしょうか。
私は、東野作品を読んでいると、どうも後者のような気がします。

そして「高齢化社会と介護の実態」
これは、私の祖父も今遠くに住んでいますが、もうここ何年か認知症の寝たきり状態が続き、
特別養護老人ホームに入居しているので、他人事とは思えませんでした。
今は叔母・伯父が近くに住んで、祖母と3人で祖父の面倒をみますが、
祖父がまだ施設に入る前は、祖母が介護をしていました。
深刻なのは、介護をする人の労力がもっとかかり、逆に介護者が弱ってしまうこと。
でも、施設というのは入居する本人も嫌なのです。やはり身近な肉親に介護をしてもらいたい。
韓国に比べたら、高齢者に対しての社会支援には恵まれていますが、ただ社会が支えていけばいいというだけの
問題ではないメンタル的なものも大きいのが、介護のおおきな課題だと思います。

この作品で、「家族の絆」について改めて考えさせられました。
この作品、あまり評判がよくないそうですが、私にとっては色々なことを考えさせてくれたいい小説でした。

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